風に揺蕩う物語

細すぎる。セレスティアは率直にそう思った。

ヒューゴの腕はやせ細っていた。それはもう病弱と言ってもいいぐらいの細さだ。とても神君と呼ばれていた武人の腕には見えない。

ヒューゴは袖を戻し、自傷気味な表情をすると意を決して話し始めた。

「僕はねティア…どうやら生まれつき脆弱な体質をしているようなんだ。3年前ぐらいから体に変調が起き始めてて、今ではもう剣を振る事も難しい…シャオシール家の当主が聞いて呆れるよね」

ヒューゴの突然の告白に言葉を失うセレスティア。ただでさえ大きな瞳をさらに見開き、蜜で潤いを見せる薄い唇は小さく開かれている。

セレスティアはなぜ今まで気付かなかったのかと自分を責めた。よく見ればすぐにわかりそうな事だった。

ヒューゴの顔色はそんなに良くない。顔も昔に比べれば痩せこけている様な気がすると…。

「…体は大丈夫なの?」

「普段の生活には支障はないよ。貴族としての雑務はこれでもこなせるさ」

ヒューゴはこの時、セレスティアに話さなければ良かったと後悔していた。そしてとっさに嘘を口にしてしまった。

最近では日常生活にも支障が出てきているのだ。体調が良くない時は、めまいや咳などが頻繁に起きるのだ。それこそ18歳の若者がこじらす様な咳ではない。

ヒューゴのそれは、老人が拗らすそれに似ていた。免疫力低下からくる風邪の様な症状。ヒューゴはそれを悟った。

「私が名医を用意するわ。しっかり見てもらいましょう」

「無駄だよティア。この3年間で出来ることは全てやったんだ…それでも何の効果もなかったんだからさ」

「なら大陸中から名薬を取り寄せて飲んでみましょう。それでもダメなら一軍を動かして病気の究明をさせて…」

「ティア…これでも僕は医療の研究をして、色々調べてみたんだ。その結果、治療方法はない事を知ったんだ」

「ヒューゴっ!諦めたらダメ!きっと治療する方法はあるわ!」

最後には叫ぶようにそう答えたセレスティア。その声は外まで聞こえていたようで、驚いた様子で近衛兵が部屋に入ってきてしまう。