風に揺蕩う物語

視線は鋭く、戦場を駆ける者が見せる覇気を伴いながら言うセリフには、重みがあった。口調も現役の騎士の当時を思い出させる。

「俺はもうティアの近衛兵ではないが、それでもティアの事をこの身をかけて守る誓いだけは忘れていない。ティアがグレイス共和国に輿入れするまでは、俺がこの命に代えても守り通す」

この時セレスティアは、不思議な気分を味わっていた。目の前に居るのは、幼き頃に見た活発なヒューゴの口調と、大人びた容姿を持つヒューゴ。

髪は肩に届くほどの長さになり、艶やかでありながら王族の様に整えられた髪型には色気がある。長身でありながら、細い手足は繊細な彫刻の様にしなやかで、武人の荒々しさは少しもない。

相反する特徴を兼ね備えるヒューゴを見たセレスティアは、何とも言えない高揚感に似た感覚を心に抱いた。

ヒューゴは凛とした表情を普段の柔らかいものに変えると、優しい口調で話し始めた。

「僕はねティア…この体で出来る事をしようと思ったんだよ。僕よりもリオナスの方が、ティアを守る役目に適任だったんだ」

「…確かにリオナスは良い騎士よ。見識もあると思うし、真面目に日々の鍛練を欠かさないとも聞いているわ。でもそれはヒューゴも同じだったでしょ?『神君』と呼ばれるほどの実力を持っているんだし」

神君とは、神話の中に出てくる騎士の通称だ。

その武力を前にした者は、目の前に立つだけで、何もせずに敗北を認めてしまうと言われている。

「買いかぶりすぎだよ。幼い頃に少しだけそう呼ばれた時期もあったけど、今は違う…これを見てティア」

ヒューゴはそう言うと、袖を捲って腕をさらけ出した。ヒューゴの腕を見たセレスティアは、首を傾げてしまう。

「…腕がどうしたの?普通だと思うけど……えっ?」

ヒューゴの腕を見たセレスティアの表情がみるみる驚きのモノに変わっていった。