風に揺蕩う物語

そしてヒューゴはそのまま茫然とした状態で立っているセレスティアに、騎士の敬礼をした。

「申し訳ございませんがセレスティア様。少し席を外させて頂いてもよろしゅうございますか？」

「えっええ…行きなさい」

ヒューゴはセレスティアに深く一礼すると、ヒクサクの方にも同じく深く一礼をしてヴェルハルトの方に近寄る。

「大変見苦しいお姿をお見せしました」

ヒューゴは深く一礼すると、ヴェルハルトは厳しい表情のまま言葉を述べた。

「よい…お前は良くやってくれた。私からも礼を言おう。セレスティアは良い家臣をもったな」

セレスティアよりも５歳上のヴェルハルトは、ヒューゴの考えを理解していたようだった。最後にヒューゴにだけ聞こえる様に感謝の言葉を呟く。

「有難く…」

ヒューゴは騎士の敬礼をヴェルハルトに返すと、ヴェルハルトは外の方に視線を軽く送る。

「外に衛生兵の者を待機させて居る。しっかりと療養して怪我を治すんだ」

「はっ」

そう言うとヴェルハルトは、マントを揺らしながら、ヒクサクの下に歩いて行った。ヒューゴはそのまま訓練場の外に出ると、外にはヴェルハルトが言うように、衛生兵が居た。

その姿を見たヒューゴは、緊張の糸が切れたかのように、足元をグラつかせ、その場に蹲ってしまった。額からは脂汗を滲ませ、声こそ出さなかったが、呻き声を出せればどれだけ楽だったろうという痛みだったのだ。

当時の事を思い出したヒューゴは、それでも懐かしいと思える出来事であったと今に振りかえる。

今現在腕は元通り動くようになっているし、あの時がヒューゴの体の限界だったのだから。

怪我が治った時にはすでに騎士としての体ではなくなっていた。それを考えると、騎士としての幕引きをヒクサクにしてもらったと思える。