風に揺蕩う物語

ヒューゴはその一撃を刀を縦にし、しっかりと受け止めたが、衝撃が強すぎて、思わず剣を放してしまった。

そこにヒクサクが刀を突き付け、勝負は決着を迎える…それがヒューゴの思い描いたシナリオだった。

だが最後に予想外の事態がヒューゴを襲う。横に振り抜かれ、刀を放してしまったヒューゴにあろうことかヒクサクは、その流れのまま剣を上段から振り下ろしてきたのだ。

ヒューゴは思わず自分の両腕を顔の前に差出し、その刀を腕を交差させながら受け止めた。

すぐにセレススティアの耳を劈く様な悲鳴が聞こえてくる。

ヒクサクは肩で息をしながらも何が起きたのか理解していない様な表情で、腕を抑えて倒れこむヒューゴを眺めていた。そして自分が何をしてしまったのか理解したのか、慌ててヒューゴに声をかけてきた。

「ヒューゴ殿っ!」

「ヒューゴ!」

離れた位置で手合わせを観戦していたセレスティアが飛び出してきて、ヒューゴの下に駆け寄る。ヒューゴは蹲りながらも自分の腕がどうなっているかを調べ、そしてすぐに理解した。

ヒューゴは左腕を上にして逆刃刀を受け止めていた。その衝撃で左腕は完全に骨折しているのが触った手応えですぐにわかった。一部骨が突き出る寸前になっている箇所があったのだ。

完全に突き出なかったのは、右腕で衝撃を緩和させた所にあったのだろう。

何はともあれ非常にまずい怪我だ。最悪腕が二度と元に戻らなくなるほどの大怪我である。

「ヒューゴっ!ヒューゴ?大丈夫なの?」

ヒューゴの体を抱きしめる様に近寄ってきたセレスティア。ヒューゴは慌ててその抱擁を避けると、何事もなかったかの様に立ち上がり、ヒクサクとセレスティアに頭を下げた。

「私の鍛練が足りないばかりに要らぬご心配をお掛け致しました。ヒクサク様。大変良い勉強になりました。良かったらまたご指導のほどよろしくお願い致します。セレスティア様。幸いにも怪我の方は大したことはございませんので心配には及びません」

急いだ口調でそう言うとヒューゴは、手合いを観覧していたヴェルハルトにも深く礼をする。