風に揺蕩う物語

セレスティアの言葉に僕は、笑って誤魔化した。セレスティアが嫁ぐ相手の悪口を言いたくなかったから。

来賓としてエストール王宮にヒクサク様が来た時だ。

その時の僕は、セレスティアの近衛兵として、お側付きをしていたのだが、ヒクサク様は何を思ったのか、僕に剣の手合わせをしてもらいたいと言ってきたのだ。

僕は他国の王子に怪我をさせる訳にはいかないと思い、申し入れを丁寧に断ったのだが、ヒクサク様は決して引かなかった。

その後、第一王子であらせられるヴェルハルト様の詮議もあって、仕方なく僕は、セレスティアやヴェルハルト様の御前で手合いをする事になったのだ。

ヒクサク様は予め、従者に逆刃の太刀を持ってこさせていたので、その武器を用いて手合いをする事になった。

エストール王国では太刀を扱う者は少なく、僕自身も扱うのは初めてだった。何度か素振りを確かめていると、腕力が落ちている僕でも剣が振れるぐらい軽かったので、なんとかなるかと思われた。

そうして僕は、ヴェルハルト様の計らいで王族騎士の訓練場を無人にしてもらい、ヒクサク様の従者とセレスティアとヴェルハルト様以外の者の入場を制限し、立ち合いが開始されたのだった。

ヒクサク様は腕力で押し切ろうとしている様な感じで攻めてきた。逆刃なので、切られても悪くて打撲ぐらいだろうと高をくくって攻めているのがすぐに分かった。

それも少し強引過ぎるぐらいで、僕は防戦しながら様子を見ていたのだが、攻め入る隙はいくらでもあった。

だがここで僕は考えないといけなくなる。他国の王子に恥をかかす事など一介の兵に出来るだろうかと。

無理なのだ。そんな事をしたら、最悪戦に発展する事も考えられた。

だから僕は攻撃を防ぎながら、どうやって自分が敗北するかを考えていた。そして結論を出した。

ヒクサクは汗を流しながらも懸命に攻めていた。ヒクサクが上段からの切り下ろしをヒューゴは横に交わし、そのまま流れるような動きで一度距離を取る。

肩で息をしていたヒクサクは、一度呼吸を整えると剣を鞘に納め、じわじわとすり足で距離を詰めてくる。そして間合いをしっかりと図った後、ヒューゴ目がけて一足飛びで剣を抜刀した。