風に揺蕩う物語

ヒクサクとはグレイスランドの第一王子の名前だ。

一度だけお会いした事があるが、確かにこう言った品には疎い方の様な気がした。

これだけ立派なダイヤの指輪は、価値の付けようがないぐらいの代物に見える。豊富な鉱山があるグレイスランド地方だからこその宝石だろうが、どれだけ立派な宝石を使おうが、デザインを考えて作らないと、見栄えがあまり宜しくなくなってしまう。

一国の王子が送る品が、ここまで粗悪な品になるという事は、おそらく王子自らがデザインをした代物なのだろうという予測はすぐに出来た。

「これだけの宝石を送っていただけるだけ有難いじゃないか。それに来年には婚約を結ぶ事になるんだしさ」

「まぁそうなんだけど少し不安だわ…」

「どうして?」

「ヒクサク様は紳士で良い方よ。でも王座に座ったら、周辺地域に戦を仕掛けそうな気がするのよね。武力で言えば、エストール王国に次いでの強国だし、ヒクサク様も強硬派で知られるお方だから」

現在の王座におられるグレイスランドの国王は、それほど他国への侵略などを行う方ではない。武力よりも国民の安住を大切にする名君であると聞いた覚えがある。

「最後にお会いしたのは2年くらい前になるかな。あの時も大変だったな…」

「ふふっ…ヒクサク様が、ヒューゴとの手合わせを願い出た時の事でしょ?多分ヒクサク様は、あの時の手合わせでの姿を見て、私が婚約を決めたと思っているでしょうね」

エストール王国の至宝と噂されているセレスティアには、他国からの謁見の申し込みが絶えなかった。

それこそエストール王国と同盟を結びたいと考えていた国もあるだろうが、それ以上にセレスティアの御身を一度でいいから拝見したいと考えての行動だろうとヒューゴは考えている。

「僕が負けてしまったからね。ヒクサク様は強いお方だから」

「それはどうかしらね。私にはわざと負けた様に見えたけど」