風に揺蕩う物語

そういうとヒューゴは自傷気味に笑った。

ヒューゴの中での戒め。自分が武家として生きることが出来ない事へのケジメ。

ヒューゴの中には粗ぶる炎の様な獰猛な部分がある。それは戦に駆り出す騎士としての教養による、一部分だ。

紳士な振る舞いと、勇猛な武を兼ね備えてこそ本物の騎士だ。

だが今のヒューゴはただの貴族。文官の様な実務をこなし、趣味で医術を学ぶだけの存在で、騎士ではない。

僕は、騎士としては生きられないから。だから今の俺には僕で十分だ。

「意図的ってのは気になるけど、まぁ違和感はないわね。長髪もよく似合ってるわよ」

「お褒めに預かり光栄であります姫様」

洒落た文句も言える様になってきた。これも日頃の努力の賜物だ。

この後ヒューゴは、セレスティアと他愛もない話を続けていた。最近の趣味や日頃の生活の不満など、セレスティアはよくじゃべった。

近隣国との情勢についての言及も二人はしていたが、最近は目立った争いも起きていないので、難しい話題にはならなかった。

「見てヒューゴ。これ私に似合うと思う?」

突然そう切り出したセレスティアは、指にはめられている指輪をヒューゴに見せる。その指輪は、大胆にも大きく切り出されたダイヤが大きく輝いており、着ける人を選ぶ宝石だった。

「そうだな…ティアならまぁ似合わなくもないけど、もうちょっと小さい方が魅力的だと僕は思う」

「そうよね。私もそう思うわ…こんな宝石が毎月の様に送られてくるのよ。逆に困るわよね」

「送られてくるって、ヒクサク様からかい?」

ヒューゴの問いに頷いてみせるセレスティア。

「高価な物なら何でも喜ぶと思っているのかしら…デザインが悪すぎるわよ。一応頂いた物だから、身に着けているけどね」