風に揺蕩う物語

セレスティアはヒューゴを視界に捉えると、座った状態のまま、自分の迎えにあるイスに手を差し伸べ、そこに座るように指示を出した。

それを受けたヒューゴは、ゆっくりと指示された椅子の前に立つと、浅く腰かけた。

セレスティアのイスの後ろには、女官が二人居り、テーブルの前に紅茶や焼き物のお菓子を用意しだした。その準備を終えると、二人の女官は深く一礼すると、室内の外に出ていく。

気がつくと女官のレオナを残して、室内にはセレスティアとヒューゴとレオナだけになっていた。

セレスティアは、目の前に置かれている紅茶を手に取ると、一口飲み、ヒューゴに話しかける。

「この紅茶は私が最近気に入っている紅茶なの。お気に召すかしら？」

「頂きます…」

ヒューゴも目の前の紅茶を手に取ると、一口飲む。

非常に癖のない紅茶だ。たぶんこれはファルロースで取れる紅茶ではない…。

「グレイスランド地方の原産ですか？」

「詳しいのねヒューゴ。その通りですよ…良質の紅茶が最近入ってくるようになりましたから」

グレイスランドは、アロニア大陸の北部を統治しているグレイス共和国の統治地区をさす言葉だ。

「そうでありますね…セレスティア様。私をこの茶会にお招き頂いたのは……何か用事があっての事なのでしょうか？」

意を決してそう話すのはヒューゴ。セレスティアの書簡に書かれていたのは、ヒューゴに一緒にお茶でもして話をしようという事だけしか書かれていなかったのだ。

セレスティアはその事を受けると、視線を伏せ、目を瞑る。ヒューゴはそんなセレスティアの様子を見て、タダならぬ気配を感じていた。