風に揺蕩う物語

ムーアが一度、斧槍を力強く地面に突き立てると宣言する。

「行くぞ!!」

入口を解放し、まだ混乱が抜け切れていない広場の方にムーア率いる精鋭が走っていくのと同時に、騎乗しているシャロンとアスラが裏道に通じる方に馬を走らせる。

予定だった…。だがそれが出来なかった。

入口を解放した先には明らかにこちらに意識を向けている騎士の甲冑を来た女性が居た。その姿を見たアスラとムーアは、茫然自失とといった表情を見せた。

だがアスラはいち早く表情を切り替えると、双剣を鞘から抜き放つ。

「忘れていた…あの方がこの場に居た事を」

アスラは表情を厳しく、噛み締めるようにそう話す。

「恥ずべき事だ。この私が一度でもお前らに欺かれるとはな」

銀髪に金色の瞳を持つこの女性は、無表情のまま腰に下げていたレイピアを引き抜いた。『美しい鬼』であるセリウス将軍は、背後に部下を10人ほど従えた状態でこちらの様子を伺っていた。

「セリウス将軍がなぜここに…」

ムーアはまだ驚きが抜けていないのか、呟く様に言うと斧槍を持つ手に力を込める。

「何故居るのかは知らんが、ヴェルハルト様の側に居るのを見た。やはりあの人を出し抜くのは無理だったか」

苦虫を噛み潰すかの様に呟くアスラだが、諦めの様子は見せてない。戦う決意を固める。

「アスラにムーアだったか。お前らがこれほど軍略に明るかったとわ正直驚いた。奇策のようで正攻法の策をかなり念密に練りこんでいる…私が策を授けるとして改めて予想したらそれを実践していたのだ。誇っていよい事だぞこれは」

この状況を驚いていたのはアスラ達だけではない。セリウス自身も少なからず驚いていた。あの状況をこの少数で打開したのだ。

隠れた逸材と評価しても良い。セリウスは興味が湧いた。

「お前ら二人は捕縛する。それとヒューゴはこの場で私が処刑する…後の者達はお前等の好きにしろ」