風に揺蕩う物語

その頃、シャロン達は民衆の群れに紛れながら移動していた。

「まさかここまで出し抜けるとは思っていなかったぜ。机上の空論も実際に目の前で起こると鳥肌ものだ」

軽く息を乱しながらも楽しそうに話すアスラ。体格の良いムーアがヒューゴを担ぎ、その横を並走するシャロン。その後ろには平服に身を包んだ仲間たちが後から続く。

これがシャロンの考えた策だった。

奇策と愚策は紙一重です。効果的に事を進めるのであれば、どちらも用いるのが良策となります…。

出し抜くという観点で言えば奇策が必要になり、見破ってもらうという観点では愚策を用いる。騎馬の強行突破は出来うる可能性の高い強硬策ではある。

だが頭の切れる策士なら一目で見破られ、対策を練られる。

だからこそ囮の愚策を用意するのだ。

騎馬隊での強行突破で煙玉を使用したのは騎乗していない事を悟らせないため。決して騎馬の存在を隠す事ではない。

途中でそれに気づいた所でもう遅いのだ。その時には何万人という人の中に隠れ、人知れずその場から消えればそれで策は成立してしまう。

もはやエストールの騎士達が探さなくてはいけない対象は、百人程度ではなく万の人間なのだ。

「ですが騎馬には申し訳ないことをしてしまいました。それに国民にも犠牲者を出してしまったかもしれません」

「それはしょうがないんじゃないか?これはある意味、戦と変わりない事だ。多少の犠牲は覚悟の上で初めからやっていた事だしな」

「そういう事さシャロンちゃん。ヒューゴを助けるために俺たちは騎士を捨てたんだ…恨まれても悔いはないよ」

心に残っていた小さなシコリを二人の騎士が助ける。犠牲を出さずに済む次元の話ではないのだ。

国王の意向に逆らうのだから。

綺麗事だけでは済まない…。

この危機を乗り越えても、先に待つのは蛇の道だけ。

それでも実行するだけの理由がシャロンにはあり、この場に居る者たちにはあった。見て見ぬ振りができない不器用な人間達がここにはいた。