風に揺蕩う物語

煙玉の影響で視界がまったくない状況で、足音を激しく騎馬が民衆が埋め尽くしていた場所をまっすぐ駆け抜けていった。

そんな中、セリウスが用意させた重装兵達が長物の武器を携え、配置に着いていた。その装備は歩くのも困難だと思わせるほどの重たい鎧に身を包み、最前線に居る者たちは自分の身の丈を超える程の盾を地面に突き立て、騎馬が来るのを待っている。

騎馬の機動力を封じるほが目的であり、その足を封じれば少数の敵を刈り取る事などすんなに難しくない。

煙玉の影響で視界は悪いが、それは相手も状況が同じだ。敵も重装兵の存在に気付いていない。

この重装兵の指揮を任されていた隊長は、これから起こる出来事をすでに予測出来ていたのか、静かに笑みを浮かべる。

「やはりセリウス様は最高だ。あの方がこの場に居た事があ奴らの敗因っ!皆の者!狩りの時間だ!」

すでに近くまで来ている事が分かるほど、騎馬の足音が耳に響き渡る状況で、兵たちに檄を飛ばす。その声に呼応した兵たちは、盾を持っている前線の兵を後ろから支え、衝撃に備えた。

そして煙が目の前で軽く渦巻くいた後、騎馬が姿を現した。

騎乗しているはずの人間の居ない騎馬が…。

「何だとっ!?」

人が居ないだけではなかった。騎馬の背中からは夥しい炎が舞い上がり、騎馬は明らかに正気を失ったかの様に暴れ馬になっていた。

火馬とも言える形容を見せている騎馬は、重装兵など気にもせずに最前列に突っ込んで行き、進行を妨害された事と背中から猛る炎の影響で、兵たちを軒並み踏みつけていく。

「一体これはどういう事だこれは?」

何が起きているのか状況が理解出来ていない部隊長は、目の前の光景にただただ茫然とする事しか出来なかった。