風に揺蕩う物語

その言葉と同時に煙玉を投げ込んだアスラやムーア達。すると辺りは煙に包まれ、一寸先すら見えないほどに煙が充満し、それと同時に騎馬の嘶く声が辺りを包んだ。

ここまではっきりと宣言されれば馬鹿でも理解できる。

このまま中央を騎馬で突っ切ると言っているのだ。加速した騎馬の前方に立ち塞がればどうなるかは一目瞭然だ。

観衆は我先にと中央の位置から端の方に逃げようと走りだし、先ほど以上に混乱の形容を見せていた。

「加速した騎馬を止める事は軽装の騎士には無理だ…このままでは逃げられるぞセリウス将軍」

ヴェルハルトもまたこの状況をしっかりと理解出来ていた。ロイスの表情にも焦りが見える。ただ一人楽しそうな様子を見せているセリウスは鼻で笑うと、しっかりとヴェルハルトに視線を合わせた。

「私の私兵が騎馬を止めるから心配するな。あの程度の少数の騎馬なら重装兵五十で止められる」

だがセリウスは自分の言った言葉に微かな疑問を感じていた。ここまで見事とは言えないものの、それなりに練りこんだ計略でこの状況を演出した敵の参謀は、この程度の策で完了するような愚鈍な輩なのかと…。

この公開処刑のお触れを出したのは昨日の話だ。セリウスやロイスの様な上層部には先にお達しがあったものの、それにしても策を練る時間はほとんどなかったはずだ。

そこまで思考を巡らしたのちに、ある一つの疑惑が出る。

敵の参謀がもし天才だとしたら。

この状況から私をも騙す事の出来る策があるとしたら…。

考えれる今の状況から思考を巡らす。

奴らの目的はヒューゴ・シャオシールの脱出。

騎馬隊に煙玉。どうどうと脱出方法を宣言した敵の目的…。

そこまで考えを巡らしてセリウスは久しく感じた事のない冷や汗を浮かべる。

ここまで練りこんでいるはずがない。だがこの状況を明確に想定出来ていたとしたら、この方法が一番この脱出劇に適している事は間違いない。

セリウスは急いでその場所から姿を消した。