風に揺蕩う物語

この騎馬隊こそ突破口の一つだ。脱出方法は一目瞭然…。

ヒューゴをシャロンの乗っている騎馬に運んだアスラは、そのまま懐に隠していた煙玉を取出し火を着ける。同様にムーアやその他の仲間たちも煙玉を用意した。

シャロンは目の前で変わり果てた姿になったヒューゴに、慈しみを込めた視線を投げかけると、力強く抱きしめる。

「お迎えに上がりましたヒューゴ様。一緒にこの危機を脱しましょう」

ヒューゴは力の無い視線をシャロンに送りつつ、目線だけ僅かに細め、笑顔にも似た表情を見せる。

今までの攻防を高みから見ていたセリウスは、目に見える全体の様子を確認したのちに、どこに居たのか背後に控えていた部下に指示を出す。

「重装兵を五十集めよ。後は言わずとも分かるな?」

「御意」

足音を消しながらその場から消えた部下を一瞥もする事無くセリウスは、処刑場に居る騎馬隊を視線に収めた。

「馬鹿が。この程度の愚策で私を出し抜けるとでも思っていたか」

罵詈雑言の如き言葉を口にしたセリウスだが、その表情は先ほどまでとは違い、生気が溢れていた。明らかに楽しんでいる。

「奴らの策が読めておるのか?」

ヴェルハルトが難しい表情でセリウスに問いかけ、ロイスもまたセリウスに視線を送り返答を待つ。

「これだけ民衆が集まる場所で走り抜けるなど不可能に近い。だが道が無いのならそれを作るまで…つまりはそういう策だろう」

セリウスの言葉が示す様に、壇上に居たアスラの大きな声が辺り一帯に響き渡る。

「騎馬に踏み殺されたくなかったら今すぐそこから逃げろっ!俺は忠告したからな!」