風に揺蕩う物語

アスラが集めたのは共に前線を駆け上がっていった仲間だ。混戦などは数数えきれないほどこなしてきた者たちにとって、これぐらいの密集地帯は経験済みである。

切り伏せた相手を力強く蹴り飛ばすと、後方に居た騎士たちも衝撃で後ろに倒れる。その者達を踏み台にしたアスラは、一足飛びで処刑場の前まで到達する。

まだ動揺が取れていない騎士たちを、回転の要領で切り倒したのち、余計な騎士達の隙間を縫い前に突き進み、難なく処刑場に居るヒューゴやギルバートの元に辿り着いた。

他の仲間も同じ要領に突き進み、一人二人と処刑場の壇上に姿を現す。

その様子を驚きの様子で見ていたギルバートがアスラに向かい大剣を突きつける。

「アスラっ!!貴様何の真似だ」

アスラはそんなギルバートに剣先を向けつつ、笑みを浮かべながら一言述べる。

「先生…注意すべきは後方だ」

「なに?」

アスラの言葉が聞こえた瞬間、後方に動きがあった。無数の馬が嘶く音と、地面を揺るがす足音。

まさしくこの音は…。

「騎馬隊だと?」

処刑場の裏手はかなり手薄だった。それもそのはず、エストール城から敵が来るなどあり得ない事だからだ。だが実際居た…。

手薄なのを知っているからこそ居たのだ。

二十を超える騎馬を引き連れたムーアとシャロンが処刑場に姿を現した。

アスラはギルバートが騎馬隊に注意を取られている間にヒューゴの縄を切り離す。流石のギルバートも目の前で起こる目まぐるしい状況変化には対応出来ていない。

シャロンが処刑場周りに人員をもっと増やせと言った真意はここにあった。今回のここまでの動きで重要なのはこの騎馬隊を用意する事。

その為には出来るだけ城内の騎士の数を減らす必要があったのだ。