風に揺蕩う物語

「ですがギルバート殿…あなたにお伝えしたい事があります」

口を動かさずに消え入る様に話すヒューゴの声は、ギルバートの耳にだけ届く。ギルバートは静かに一度う頷いて見せる。

「おそらくこの公開処刑は何者かの妨害で中止になります」

「何?」

「だが安心していい。どっちにしろこの命は今日で終わる」

「?」

口調が定まっていないヒューゴだったが、ギルバートは特に気にしていない。というよりもヒューゴの話す内容を理解できていない。

「あなたに約束して頂きたい事がある。一つはセレスティア姫…彼女の事を信用してあげて欲しい。近い未来あなたは姫と敵対する事になる。だがその時、姫の言葉に耳を傾けていただきたい」

「…一体なんの話をしているのだ?」

「それに答える時間はなさそうだ」

ギルバートが不審そうな表情を見せる。するとエストール城のある方向から爆発音が響き渡り、警護をしていた騎士はもちろん、全ての者の視線がそちらに向かう。

すると民衆の中から染み出て来る様に武器を携帯した者が、処刑場目かけて走りよってきた。

アスラとその配下達だ。合図とはこの爆発音の事だった。

もちろんこの爆発音は合図の為だけに出された音ではない。次の一手の伏線でもある。だがこの音の効果は絶大だ。後ろに注意が散漫になった騎士たちは、国民に化けた歴戦の騎士たちの動きについてこれない。

アスラは最前線に居た騎士を急所を狙わずに双剣で切り伏せる。その様子を間近で見ていた国民は叫び声を上げながらその場から逃げようとした。

この瞬く間にこの処刑場は修羅場と化した。