風に揺蕩う物語

訳がわからない。この女は何を言っている？

「…ダメだ。もう辞めよう。君は冷静さを欠いている」

「私は冷静ですが」

「どこがだっ！警備の人数を増やせだと？わざわざ脱出を困難にさせる馬鹿が何所にいる？お前は本当にヒューゴを助け出す気はあるのか？」

「落ち着けムーア！お前らしくない……シャロンちゃん。詳しく聞かせてくれるかい？どうにも俺たちには理解出来ないんだ。わざわざ警備の人数を増やす意味が」

眉間に青筋を立て、机を力ず良く叩くムーアを後ろから諌めたアスラは、普段の口調でシャロンに問いかける。

先ほどまで落ち込んでいた為か、幾分冷静なアスラだが、それでもムーアの意見に同感だった。

意味が分からない。表面上は冷静を装っているが、本当は自棄になっているのではないか？そう感じずにはいられない。

「公開処刑とは見せしめで行うものです。警備は必然的に奥行ではなく平衡を保つ様に配置されるはずです。奥行きを作り過ぎると観覧者が肝心の処刑を見れなくなりますから…」

「それは理解できる。だが警備を増やす意味にはなってない…」

「意味ならあります。警備の方に壁になって頂くのです。横陣はご存じですね？過密すぎる横陣は動きが取れなくなり、陣形の変化が出来なくなります。すなわち状況変化に対応出来なくするのです。不測の事態が絶対に起きないだろう人数を集める…それはエストール軍にさらなる油断を与える事が出来るはずです」

理解が深い。確かにシャロンは冷静だ。それに現状把握も出来ている。アスラはすでにシャロンの事をただの使用人として見ていない。

同列の人間として会話をしていた。そしてシャロンの言葉に反論する事が出来ない。

「ですが本当の目的はそれではありません。脱出を考えるならば、もう一つ大きな問題がありますから…それを解決する為に、王宮の中の騎士を出来るだけ減らす必要があるのです」