風に揺蕩う物語

唖然と聞いていた二人だったが、ムーアがここで異を唱える。

「これから策を錬るのか?しかもただの使用人である君がか?」

話にならないといった様子だ。それも当然である。あれだけの啖呵を切っておいて、これから策を練るなどと笑わせる。

口に出さずともそう思っているだろうというのはシャロンにも分かった。だがそれも想定内。

特に気にした様子もなく説明を続ける。

「役職は関係ありませんよムーア様。私の独断で全てを決めるつもりは一切ありませんから。ですがお二人を納得させるだけの策を私は考えますから、結果的には私が策を練る事になります…よろしいですか?」

「よろしいも何も…本当にそんな事言っているのか?君はヒューゴを助け出したい気持ちが先行し過ぎて、冷静な判断が下せていない様に感じるんだが」

ここまで気持ちを突き抜けられると笑い話ではすまない。シャロンの気持ちも理解出来るが、策でどうこう出来るほどエストール王国軍は馬鹿ではない。

止めるべきだ。自分が冷静な判断を下せる状態の時に。

「それに警備の数だが、公開処刑に踏み切ったからには王宮に居る騎士のほとんどを招集するはずだ。内約は処刑台の警備に二千人ほどの騎士を割くはず。それと会場警備に一万人と王族警護に五百人…処刑を拝見しに来る国民を合わせるとざっと四万人って所だろう。それでも君は可能だと言うのか?」

厳しい現実を突き付けたムーア。世間知らずの女でも分かるように言ったつもりだった…。

だがシャロンは小さく笑った。

「ムーア様…どうにかして警備の数をもっと増やせませんか?」

「はぁっ?」

「出来ればその倍は招集して欲しいです。少なくても六万…多ければ多いほど好ましいです」