風に揺蕩う物語

「実際ギルバート先生が諦めたのが決定打だったな。俺達はヴェルハルト様に進言出来る立場を持ち合わせていない…結局は正攻法のやり方では無理だったという事になる」

自分を責めている様子のアスラを見かねたムーアは、説明の補足をした。

だが重い空気は何も変わらず、アスラは項垂れるように頭を下げ続け、シャロンの俯く姿に変化がない。その様子を見たムーアはため息を漏らす。

「なら助け出しましょう」

「えっ?」

落ち込んでると思われたシャロンの口から力強い言葉が漏れる。その言葉にアスラとムーアは驚きの表情を浮かべる。

「それは無理だ。あの警備体制からの脱獄は不可能に近い」

反論する様にアスラはそう言葉を述べた。その意見に賛成なのか、ムーアも一つ頷いてみせる。

「別に脱獄させる必要はありません。公開処刑になるのですから、堂々と正面から助け出せば良いんです」

「それこそ不可能だ。ファルロースには王国軍の本体があるんだぞ?3人ではどう頑張っても助け出す事など出来ない」

今度はムーアが反論を述べる。だがシャロンは一切引かない。

「お二人がそうお考えなら、助け出すことは絶対に可能です」

絶対に無理だと説明した。だがそれなら助け出す事が可能だとシャロンは言う。

不審がる二人の様子を後目にシャロンは、強気の態度を崩さない。

「他力は動きを鈍らせ、憎悪は目を曇らせ、安易は隙を生じさせます。こちらが一致団結して策を練ればかならず虚を突けるはずです」

「虚を突く?」

「はい。出来うる限りの明日の警備体制を把握し、ヒューゴ様を助け出す為に必要な関門を明確にする事が出来れば、私が策を練ります」