風に揺蕩う物語

だが特に何も言う事もなく二人はロイスから視線を外し、処刑場の方に視線を送った。どうやら会話はこれにて終了したようだ。

ヒューゴが処刑場に到着し、執行の準備が終わったようだ。

これからヒューゴ・シャオシールの処刑が始まる。



一か八かの展開になってしまった。

まさかギルバート先生がこんなにもあっさりと諦めてしまうとは…。

アスラは騎士の服装を脱ぎ、市民の服装に着換えて群衆に紛れていた。

考えが甘かった。厳しい道のりだとは思っていたが、正攻法でヒューゴを助けることが出来ると信じていた。

シル・ロイスの事をどれだけ調べても小さな綻び一つ見つからない。

ヒューゴはやっていない。絶対にやっていない…。

「絶対に助けてやるからな」

アスラの口からは自然とそう言葉が漏れていた。

正攻法がダメなら仕方がない…剛で行くしかない。ヒューゴに恩がある騎士を何とか百人ほど用意は出来た。

この包囲網を突破するのは容易ではないが、処刑場を守る騎士達をすべて倒す必要はない。精々三列ほど切り崩せばヒューゴの下に辿り着ける。

大丈夫だ…行けるっ!

背中に隠した双剣は、手を突っ込めばすぐに取り出せる様に工夫がしてある。

全ては作戦通りに決行するのみだ…。

シャロンちゃんが考えたこの作戦を持ってすれば何とかなる。

アスラは昨夜、徹夜で考えた作戦会議の時の事を振り返った。

「すまないシャロンちゃん。あんな啖呵を切っておいて、俺にはどうする事も出来なかった…もうヒューゴを助け出すのは無理だ」

人知れず集まったこの三人。最初にアスラはシャロンに深く頭を下げた。その様子を静観するムーアと、顔を伏せる様にして押し黙るシャロン。