風に揺蕩う物語

宰相であるロイスの今の地位は、国王代行のヴェルハルトの次の権力者と言っても過言ではない。

だがそれでもセリウスは何の返事も返さなかった。ロイスにだけではなく、ヴェルハルトに対しても挨拶の一つも言わない。ヴェルハルトはというと、そんなセリウスに対して何も気にしていないようで、処刑場に居るヒューゴに視線を落としている。

つまりはセリウスと同じ場所を眺めていた。

良くわからない女だ…。

リビングアーマーを所持し、身に余る能力を有しているロイスは、無礼な態度をとるセリウスに殺意を覚える。あのヒューゴ・シャオシールをも手玉に取れた自分の実力を過信しているのだ。

だがセリウスの能力は、かなり未知な部分が多い。ロイスはセリウスの武力を知らない。

だから保留。

自分に仇なすものは全て排除する。

いざとなればデルモアが居る。あの者の力を持ってすれば、人は全て無力。

まずは本日行われる最高の劇を観賞しようか…。

「くだらん」

ボソッと毒を吐いたセリウスは、その場から離れようとする。開口一番がそれか?とロイスが驚いていると、ヴェルハルトがセリウスの腕を掴む。

「最後まで見届けよ」

「私の居場所は戦場のみ。この様な戯れを鑑賞する趣味はない」

「セリウス殿は陛下をその手にかけたヒューゴ・シャオシールの処刑が戯れと申されるのか?」

2人の会話にロイスが加わった事で、セリウスの視線がロイスの顔に向く。

その眼には光が感じられない。ゴミを見るかの様な冷徹な視線。

「そうだ。誰かが死んだだの殺しただのは戦場に行けばそこいらに転がっている。万の人間の命が衝突し消滅する戦場に勝るものはない…」