風に揺蕩う物語

街道を騎士に先導されて進むと、大きな関所が見えてくる。普段なら見張りは居ても門が閉まる事はないのだが、この時は閉まっていた。

そしてヒューゴが門の前まで歩を進めると、ゆっくりと門が開いていく。

そろそろ今生の去り時か…。

眼前に広がる数万の民衆と、処刑台で目を閉じながら待つギルバートを視界に捉えたヒューゴは、自分の死に場所をただ静観しつつ、ゆっくりとした足取りで処刑台に向かった。



ファルロースの民は自らの意志でこの処刑会場に赴いていた。ヒューゴの処刑日の開示はあったものの、当然強制参加ではない。

国王と王妃の暗殺。言葉では表せないほどの罪を犯したヒューゴ・シャオシールの最後をその眼に焼けつけたい。その様な憎悪の気持ちを抱いてこの処刑場に現れた者は意外と少なかった。

何故なら、その犯人がヒューゴ・シャオシールだからだ。

本当にあの人がこの事件を犯した犯人なのか。その眼で確かめるまで納得がいかないと思ってこの場所に来た者がほとんどだった。

ヒューゴがボロ服を纏って処刑場に姿を現した時、群衆からどよめきが起きた。本当にあのヒューゴ・シャオシールが罪人なのか…。

ある所からは悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

最近の情勢もあってかヒューゴの戦績は過去の英雄と比べると格段に少ない。だがヒューゴ・シャオシールの武勇はこのファルロースの民にとって、代わりの利かないものだと言われていた。

騎馬に適した長物の武器で、槍は特別扱いが難しいものの、それに勝る武器はないと言われている。その槍術を極めた武人。

列国の脅威であるヒューゴ・シャオシールがこの様な場所で最後を迎える。

やるせない気持ちとふつふつと湧き起こる怒りがその場に居た群衆達の心を支配し始める。