風に揺蕩う物語

一人になったヒューゴは独り笑みを浮かべていた。

力をもらいました…ギルバート殿に殺されるのなら本望です。

心残りは正直たくさんあるが、全てまっさらな状態で死ねるなどとは初めから思っていない。これで良いんだ…。

俺は明日死ぬ。




まったく我ながらもう何分もしないうちに死ぬというのに、悠長な脳内だ。そうこうしているうちに、もう兵舎を出てしまったようだ。

兵舎を出たヒューゴは、数多くの騎士が列を作る道を歩かされていた。普通なら罪人は顔に黒い布を被せ、その表情を見せない様にするのが普通なのだが、ヒューゴには布は被せられていない。

それはシル・ロイスの粋な提案によるものだった。最後ぐらいエストール城内をその眼に焼けつけたいだろうという。

あの人も良い性格をしている。そんなに罪悪感を俺に植え付けたいのか?

列を作る騎士たちの突き刺さるような視線はまさしく殺気だった。それも当然である。

騎士達の大半はヒューゴが国王と王妃を殺害したと信じている。自分たちが命をとして守りぬく象徴である王族を殺されたのだ。

出来るのなら自らの手で殺したいと思っていよう。

ヒューゴはそのままエストール城の城門を潜り抜けると、そのままファルロースの市街地の方に歩を進めていく。そこにもどれだけの数の騎士が居るのかわからないほどにたくさんの騎士たちが列を作っていた。

その殺伐たる雰囲気や、ヒューゴが少しでも不審な動きをしたら全員が切りかかってくる様な緊張感が辺りを包み込んでいる。

俺に向けられているこの殺気は、戦場で感じていたものとはまるで違う種類のものに感じる。

憎悪とはこうまで重い感情だったんだな。体に纏わりついて離れないほどに…。

やるせないな…。