ギルバートは掴んでいた襟元を放すと、弱りきっているヒューゴの体を支え、汚れてはいるが、それでも床よりかは幾分マシであるベッドの上に座らせた。

そして自分はまた床にドカッと座り込む。

「お主の察している様に今回の処刑執行人はワシだ…ヴェルハルト様に自ら志願した」

ヒューゴただギルバートの話に耳を傾ける。まるで他人事の様に感じながら。

「ワシはヒューゴ殿が無実だと信じている。勘だが今回の黒幕はシル・ロイスであり、お主は罠に嵌められたのだろう…だがワシはお主を殺す事になるだろう」

全くこの人もつくづく損な役回りを引き受ける人だな。

「お主が無実だからこそワシがこの役割を引き受ける。ワシの教え子達に咎を背をわせる訳にはいかぬからな。恨み辛みはワシが全て引き受ける…ワシを恨まれよヒューゴ殿。決してヴェルハルト様を恨まれるな…あの御方は王の重責を全うしようとしているだけなのだ」

「俺は誰も恨みませんよ。それに後はリオナスに託していますから…アイツならティアを守りぬけるからこそ、俺はこのまま死ねるんです」

多分これが俺の気持ちなんだろう。感情を表に出せない俺だが、何かが俺の気持ちを代弁してくれている。

有難い。

「セレスティア様をリオナスが守っているのか?」

「えぇ…申し訳ありませんがギルバート殿にはこれでお引き取りを願いたい。俺も心の準備の時間が欲しいのでね。明日はよろしくお願いします」

処刑が決定したからには執行は明日だろう。時間を置く必要がないしな。

「……わかった。ゆっくりと休んでくれ。牢番にはワシから身を清めれる道具を用意する様に伝えておく…最後ぐらい綺麗な状態で迎えたいだろうからな」

ギルバートはそう言うと重い腰を上げ、牢屋の外に出る。そしてその場から立ち去ろうとして立ち止まり一言。

「力になれなくてすまない」

その言葉を残してその場を去って行った。