「出ろ」

業務的な言葉を投げかける騎士が、俯き加減に床に座るヒューゴの肩を掴み、その場に立たせた。

ヒューゴは、文句も何も言わずに後ろ手に縛られた縄を持つ者と、前を先導する者に挟まれる形で牢屋から自分の足で出た。

この時ヒューゴは、生気がなく抜け殻のようになっていたものの、それでも意識ははっきりしていた。そして薄暗い通路を進みながら昨日の事をふと思い出していた。

その時の自分は、牢屋の中で何も考える事が出来ない状態だった。感情の出し方を忘れ、考える方法をなくした感じだったと記憶している…。

何となくだけど自分の感情の上にもう一つ感情が乗っかり、上書きされたんだと理解した。今の俺は感情のほとんどを消された状態。

記憶を引き出せない。感情を引き出せない。根こそぎ削り取られたんだ…。

俺の中に存在する俺に。

そんな感じだったと思う。あの人が来るまでは…。

俺が牢屋でただ座っていると、牢屋の外が少し騒がしくなったんだ。それはまぁ1日に何回か起きる事なんだが、今回は騒がしいだけじゃすまなかった。

ある人物が俺を訪ねてきたんだ。ロイスの関係者以外は初めてだったんじゃないかな。

その人物はギルバートだった。険しい表情をしたまま俺の入っている牢屋の鉄格子の前まで来ると、眉間をひそめ酷く驚いた表情をしていた。

この時の俺はこの人物が誰かわからなかったんだ。何故か名前が出てこない。

ギルバートは人払いをすると、牢屋の鍵を開けて中に入ってきた。俺が座り込んでいる酷く汚れた地面に特に気にした様子もなく胡坐をかいて座ると、背筋を伸ばして俺と対面する。

「わしは自分の眼を信じられん。あなたは本当にヒューゴ・シャオシールか?偽物ではないのか?」

流石にこの人は鋭いな。確かに俺は今までのヒューゴではない。