風に揺蕩う物語

男の名はレスターというようだ。レスターはそう言いうと、日差しが強い日中の熱から逃げるように日陰になっている大きな木の下に移動し、その場に座り込む。

すると鷹も肩から降り、地面に立つと木彫りの様に身動き一つしないでその場に佇んだ。そしてまた何処からともなく声が聞こえてきた。

「ところで『神護者』である君に来てもらった用件は分かってるよね？」

「もちろんです」

「俺もこの姿じゃ出来る事が限られているからさ。万が一の為に準備は欠かせない訳だよ…かなり個人的な用件であるのが申し訳ないんだけどね」

２人の会話を聞くと、レスターよりも話し相手の方が立場が上のようだ。

申し訳なさそうに話す相手方の様子を見て、レスターが滅相もないといった様子で返事を返す。

「何を申されますか『ロラン』様。私の様な者がロラン様と関係を持てる事自体が奇跡なのですよ。この機会に『神界』に進出出来るのではないかと私は心踊らせています。どんな厳しい事でもご指示下さい」

「はははっレスターは正直者だね。でもこっちに来たら、簡単にリヴァナリスには戻れなくなってしまうよ？」

「元より未練など有りません。私はこの地を捨てた者ですし、そろそろ過去の自分と決別せねばいけません」

レスターはそう言うと懐かしむ様な様子で周りの様子を見ている。だがその眼は新たな物を捉え、その為にロランの誘いに乗った。

「過去の争乱期にこの地を束ね、『戦神』とまで言われた英雄が自分を捨てるのは勿体ないんじゃない？」

「２００年以上も昔の名声など今に生きる者に何の影響力もありません。この地に私の居場所はもうありません…ならこの地を忘れる為、そして新しい目標を見つける為、私は行動をしたいと思います」

今までとは全く違う眼光を携えそう話すレスターは、まさしく武官の持つ存在感を醸し出していた。分かる者には分かってしまうほどの存在感。

その気配は辺りに居た小動物が訳も分からずにその場を脱兎の如く逃げ出すほどだ。