風に揺蕩う物語

「ふふっ。二人はそうでなくちゃダメだよ。調子が狂っちゃう」

2人は罪のなすり合いを言い合っていたのだが、ヒューゴが笑っている姿を見ると、二人とも表情を柔らかいものにした。

「ほんと久しぶりだよなヒューゴ。1年前からきっぱりと王宮には来る事なくなったしよ…」

「ホントそうだよな。急にセレスティア様の近衛兵隊長の座をリオナスに譲ったと思ったら、地方豪族や町の子供達相手に町医者を始めるんだからよ。何考えてんだって感じだよな」

アスラとムーアはそれはもう奇異な表情をしながらヒューゴに言ってきた。ヒューゴの事情を知らない二人にしてみれば、考えられない出来事なのだろう。

「あのセレスティア様のお傍に居られるんだぞ?俺なら絶対に辞退するなんて考えられないな」

「エストール王国の至宝であらせられるセレスティア様の近衛兵…羨まし過ぎる役職だよな!」

にやけ面でセレスティアへの思いを馳せているアスラとムーア。ヒューゴは心の中で絶対にこの二人にだけは任せられないと思った。

「まぁ僕も色々とあるんだよ。それとセレスティア様との謁見が済んだら、王族騎士の兵舎に顔を出すから、その時にでも色々話そうよ」

ヒューゴはそう言うと、軽く手を振りながら王宮の中に入って行った。アスラとムーアもヒューゴに返事を返すと、王宮のドアを閉め、再び門番としての警護に戻って行った。

王宮に入ったヒューゴは、セレスティアの書簡に書かれていた場所に赴くため、歩を進める。セレスティアが現在居る場所は、フォルミス湖が見渡る事が出来る来賓用の客間だった。

フォルミス山から見渡せるのは何もファルロースだけではない。裏手側の方には三日月状に広がる湖があり、それはもう壮大な絶景が広がっているのだ。

そんな場所にセレスティアは居る。

ヒューゴは書簡に書かれていた場所に進むと、ヒューゴを待っていたのか、二人の女官がヒューゴを出迎えた。

「お待ちしておりましたヒューゴ様。セレスティア様の下にご案内致します」