風に揺蕩う物語

そんな脳天気な言葉とは裏腹に、信じられない出来事に驚き、剣を突き刺した男は湧き上がる恐怖と共にその場で腰を抜かしてしまった。

そして気づいた…。

自分の持っていた剣の鍔から先が消えてなくなっていたのだ。唖然と自分の持っている剣と目の前に佇んでいる男を交互に見る。男はそんな男の様子を見てうすら笑いを見せた後、盗賊達に問いかける。

「お前たちに聞きたい事がある。この道を戻るとルードという町がある。そこで今日…もう昨日か?まぁいい。まだ若い女性が強盗にあって殺害されていたのだが…誰か心当たりはあるか?」

盗賊達は目の前の男に恐怖を覚えていた。なのでこの言葉が耳に届いていない。

一人を除いては…。

真っ青な表情で男を見ていた盗賊達の中で、一人だけ体を震わせて反応を示した者が居たのだ。その一人に標的を定めた男は、静かに歩み寄り目の前で立ち止まる。

「お前は心当たりがありそうだな……お前がやったのか?」

盗賊は少し後ずさる。だがそれ以上は後ずされなかった…。

目の前に居る男があまりに巨大過ぎたのだ。それはもちろん体の大きさを言っている訳ではない。一個体としての存在感。

包み込む様な存在感。それはその場を走り去ったところで意味がないと思ってしまうほどに広大で深い。

盗賊は一つ小さく頷いた。そして自分の命を諦めた。

俺はここで死ぬんだと確信してしまった。

「そうか…お前がやったんだな」

盗賊の仲間たちは動けない。何せ剣で刺しても意味がない存在だ。

自分達では助けられないと直感的に感じたのだ。

男は右手を前に差し出す。軽く開かれていたその手はゆっくりと大きく開かれ、そのまま盗賊の顔の方に伸びていく。

盗賊は思わず目を瞑った。これから自分がどうなるか分かっているが、その光景を目視出来るほど精神が強くなかったから。