風に揺蕩う物語

「理屈や証拠じゃない。感情が出来事を理解してくれない。だったら自分の思うままに考え、行動に移す。少ない可能性だろうと、信じたい方向に考える…俺は合理的って言葉が嫌いなんだ。俺もシャロンちゃんと同じで、ヒューゴを信じる。アイツはこんな事をする奴じゃないってね」

「アスラ様…」

「ヒューゴは誰かの陰謀に巻き込まれたんだ。俺はその証拠を探してヒューゴの無実を証明したい…夢物語と言われようとこれが俺の信じた道ってやつだ。シャロンちゃんも俺に協力してくれるかい?」

アスラがシャオシール家に来たのはシャロンを助ける為ではない。自分の信じる道を進むために、シャロンの協力を得に来たのだ。

シャロンは二つ返事でアスラの申し出を承諾し、晴れて二人はヒューゴを助けるという名目の元、手を取り合う事になった。

そしてロイスによって完璧に仕組まれた裏工作を、何の証拠もなしに真実に近づく為の一歩を踏み出す。

だが…。

長らく今回の謀反に関しての会議が続いていた王宮では、ヴェルハルトが一つの決断を下していた。

「ヴェルハルト様っ!どうかもう少しご決断をお待ちになって下さい!」

ギルバートが懇願を込め、声を張り上げる。だがヴェルハルトはその言葉に耳を貸さず、先ほどの言葉を復唱する。

「私は意見を変えるつもりはない。今回の謀反の下手人はヒューゴ・シャオシールであり、協力者は実弟でもあるリオナス・シャオシールで決まりだ。現在捕縛されているヒューゴ・シャオシールは、明後日に公開処刑。リオナス・シャオシールも捕え次第同じ処遇に処す。これはエストール王国第一王子である私の勅命だ…今すぐ国中に御触れを出し、処刑の段取りを行ってくれ」

ギルバートの懸命なる説得も功をなさず、残酷なる決断を下されていた。