風に揺蕩う物語

何か釈然としていないギルバートは、ロイスの説明では全然納得がいっていない。だがこれ以上ロイスを問い詰めても答えは堂々巡りを辿るだけ。

それが分かっているが故にギルバートは、それ以上ロイスに質問をぶつける事が出来なくなっていた。

無言が室内を支配していた時、会議室のドアが開いた。現れた人物を見た会議室にいた者達は、勢い良く席から立ち上がると、綺麗な敬礼を向ける。

現れた人物はヴェルハルトだった。無言で室内に入ると、卓の中央にある豪華な装飾がなされた席に着き、厳しい表情のまま立ち尽くしている皆に視線を送る。

「今回の騒動を簡潔に説明せよ」

ヴェルハルトが会議室に登場した事により、会議は本格的に始まった。

エストール城王族騎士兵舎。そこにある牢屋にヒューゴは入れられていた。

服装はロイスと戦った時と同じで、服には自分の血や殺害したロイスの私兵の血やらで酷い形容を見せていた。意識は取り戻してはいるものの、その表情には生気というものが何も感じられず、ただ俯き加減に地面に座り込んでいる。

牢屋の前にはロイスが手配した王族騎士が二人監視し、牢屋に繋がる通路も騎士が厳重に警備をしているので、誰も牢屋に入る事が出来ない状態だった。

食べ物も飲み物も何も運ばれる事なくヒューゴは完全に放置されていた。

そんな通路の様子を窺うように身を潜めている者が二人居た。

「えらい事になったなアスラ。どうしてヒューゴが捕まっているんだ?」

「俺が知るかよ。分かっているのは、ヒューゴが陛下や王妃を殺したらしいという事だけ…どう思うよ」

「どう思うって…あり得ないだろ普通に」

「だよなぁ…」

平素のヒューゴをよく知る二人は、お互いにヒューゴが無実なのではないかと思っていた。だが目撃証言が多数あり、それがこのエストール王国を動かしている老臣なのが大問題なのだった。

二人は時間を見つけてはこの牢屋の様子を伺っていた。そしてあわよくばヒューゴと面会をしたいと考えていた。