風に揺蕩う物語

人の存在でありながら光霊術を扱えるだけでもあり得ないのに、高位な術を無詠唱で行える所業。

デモルアが考えたのは、ヒューゴが実は神族の者なのではないかという仮説。

だがこれは考えられない事なのだ。ヒューゴの肉体は神族の特徴とはかけ離れており、間違いなく人の肉体なのだ。ヒューゴを神族だと考えるよりも、何かの要因があって偶発的に発揮された事象と考えた方がまだ可能性は高い。

と考える。

「それもそうだな…焦る必要などない。実直な騎士と世間知らずの小娘など捕まえるのは容易い」

ロイスも大仕事が一つ終え、不測の事態を軽視していた。意識を手放しているヒューゴの両手に封の呪いをかけて束縛すると、次の行動に移す。

「この男さえどうにか出来れば、あとはこっちのものだ…」

気がつくとデルモアは静かに姿を消し、その場から居なくなる。ロイスはそんなデルモアの事など気にせず、ただ満面の笑顔でヒューゴの体をセレスティアの部屋から運び出して行った…。

この出来事はエストール王国領内を始め、グレイス共和国や六ヶ国同盟領にもランディス国王とセレス王妃の崩御とセレスティア行方不明の話は知れ渡り、大きな衝撃を与える。

遠征中だったヴェルハルトにもこの信じられない内容の話は伝わり、グレイス共和国訪問の予定を変更してエストール城に戻る事になった。

反逆者ヒューゴ・シャオシール。

ヒューゴ・シャオシールは老臣達の見ている前でランディス国王とセレス王妃を殺害し、その後にセレスティア誘拐を企てる。リオナス・シャオシールはヒューゴの計画に加担し、セレスティア姫の誘拐の手引きをした。

後にシル・ロイスがヒューゴの捕縛に成功したものの、リオナスはヒューゴを見捨ててセレスティアを誘拐し逃亡。現在は多数の兵士をエストール王国領土内に派遣し、捜索に当たらせている。

これがアロニア大陸全土に知れ渡った情報の全てであった。