風に揺蕩う物語

デルモアはその様子を少しの間静観した後、ヒューゴの額を覆うように手を据える。

するとヒューゴの体からは白い煙が凄い勢いで噴出し、その煙が出尽くした所でヒューゴの動きが止まった。

「俺の声が聞こえるか?」

デルモアが語りかけるもヒューゴに反応はない。その様子を不審な様子で眺めているロイスと、表情が兜で見えないが。

「……まだ死んではいないな。ならいい…遅れを取り戻すには十分時間は残っているしな」

デルモアはそう話すと、書斎の方向に足を向ける。

「面倒だが俺があの二人を殺してくる。王宮を離れられたら大事だからな」

閉められている書斎のドアは、デルモアが来るのを待っていたかの様に目の前まで足を向けると開け放たれ、書斎の全容が明らかになる。

本棚が壁に並ぶ中央に暖炉はあり、そこには小さく開け放たれている鉄格子の扉があった。暖炉の前には平面の鉄板が置いてあり、それが鉄格子の存在を隠していたのだろう。

「私が戻るまでその男はそのままにしておいてくれ。色々と調べたい事もあるのでな」

デルモアがロイスにそう言葉を投げかけたその時だ。

磔の状態だったヒューゴが、何の前触れもなく一瞬で姿を消すと、書斎の暖炉の前に瞬時に移動していた。その超人的な動きにはデルモアも驚きの表情を浮かべ、一瞬動きを止めてしまう。

その僅かな時の間にヒューゴは、暖炉に視線を送ると手を翳す。すると白い閃光が辺りを支配し、デルモアは小さく舌打ちをした後に暖炉の方に残像を残しながら移動した。

だが閃光が止むと同時に物凄い勢いで吹っ飛ばされたデルモアは、書斎の壁を突き破り、ロイスが居た場所で片膝を付きながら着地した。

「なっ何が起きたんだ一体?」