風に揺蕩う物語

直線的な動きで一気に間合いを詰めると、腕をしならせるながら右手を斜め上から手刀の様な形で振り下ろす。デルモアはその一撃を、体を静止させた状態で残像を残しながら横に移動して交わす。

その動きは常人ではどの様に動いたか分からないほどで、気がつくと攻撃を避けていたと言った方が適切である。

手刀は淡い光を放ちながらも、はっきりとした雷鳴をその手に宿している。ヒューゴの体全体からは雷鳴音が轟き、その質量は触れるものを瞬時に焼きつくすほどであった。

一撃でも受ければ致命傷に至るのは確実な攻撃を目にも止まらぬ速さで打ち込むヒューゴと、その攻撃を完全に見切っている様子で交わすデルモアの攻防は、まさに人の戦いではない形容を見せている。

「まだかロイス…そろそろ俺も…限界だぞ……」

完璧な見切りでヒューゴの攻撃を避けるデルモアであったが、ここでロイスに弱音の様な言葉を吐く。ロイスの体の周りには黒い煙が、螺旋を描く様に旋回を始めており、詠唱はまだ続いている。

「……完成した。もう大丈夫だ……?」

ロイスの詠唱が終わると同時に黒い煙は大きく拡散し、一瞬でその場から消えてしまう。それと同時にデルモアは、ヒューゴの手刀の突きを先ほどまでとは全く異質な速さで交すと、そのままの勢いで首根っこを掴み壁にヒューゴを叩きつけた。

「…遅すぎだロイス。これ以上この様な弱者に調子に乗られるのは俺の名に傷が付く。もう少し術の発動が遅かったら、殺していた所だ」

デルモアがそう話しながらも拘束する為の呪縛を施し、ヒューゴを壁に磔の状態を施していた。ロイスの様に詠唱を伴わないその技は、デルモア以外は気づく事が出来ないほど素早く行われる。

「未熟者が…己の力量を超える光をその身に取り込むとはな」

正気を失っているヒューゴは、磔の状態に気付いていないのか、その身を捩らせながら暴れまわっている。首根っこを押さえこまれているデルモアの腕を振りほどこうと藻掻くものの、思う通りに動く事がが叶わず、言葉にならない言語で呻き散らす。