風に揺蕩う物語

ヒューゴの異変を目の当たりにしたロイスは、度肝を抜かれた様でその表情からは焦りが見える。自分が有している力と似た物をヒューゴも持っている。

それも道具に頼る様な力ではなく、自らを媒体にした自然な力。

「どういう事だこれはっ!森羅万象の力を自らの肉体に吸収しているだと?どう考えても人の領域を超えているではないか!」

--その通りだ。この者は光霊術(こうれいじゅつ)の心得を持っていると考えて良いだろう……もはやお前の敵う相手ではないようだな。

不気味な声がまた聞こえてくる。だがヒューゴにはもうそれらの声に耳を傾ける余裕は少しもない。

大いなる力が暴走しかけ、自らを含め周りの者全てを破壊しようとしている。

--俺が行こう。お前はエストール城の全ての領域に防壁結界を張ってくれ…神界や魔界にこの事を悟られる訳にはいかんからな。

「わかった…頼んだぞ『デルモア』」

ロイスがデルモアなる人物と会話をしている間に、ヒューゴの肉体は完全に回復していた。考えられない事だが、肉体から溢れ出る大いなる力が致命傷の傷を一瞬で癒したのだ。

ロイスが後ろに下がり、漆黒の衣を媒体に詠唱を開始した中、唐突にヒューゴの目の前の空間が歪み、白銀の長髪が印象的な漆黒の鎧に漆黒の兜を身に纏う一人の男が現れる。

「我が名はデルモア。リヴァナリスに新しい秩序を齎す者…今この時より太古から続く神族と魔族の盟約を破り、この時空に干渉する者なり」

不気味な出で立ちをしているデルモアは、紳士の様にそう話すと目の前のヒューゴと向かい合う。

ヒューゴの体から発せられる煙は、死神とかしたロイスの部下の体を包み込み、瞬く間に死体の状態に戻す。そうしている間にもヒューゴは力をその身に蓄え続け、その膨大なる力を精神力のみで抑えつけている状態である。

その様子を静観しているデルモアは、ロイスの施す術が完成するのを待つ。そうじないと行動に移せないからだ…。

だがヒューゴは、詠唱を終わるのを待つつもりは当然ない。

目にも止まらぬ動きでデルモアに素手で襲いかかる。