風に揺蕩う物語

腹部を踏まれた事で腹圧が急激に増し、ヒューゴの口から噴水の様に血液が噴き出す様を見たロイスは、こちらも半狂乱状態の形容を見せながら言葉を発した。

「先ほどの威勢はどうしたヒューゴ・シャオシールよっ!随分と情けない顔をしているではないか!これがそんなに苦しいのか?あっ?」

甚振る様に踏みつけるロイスは、吹き出る血液が自分の顔に掛かろうが構わずその行為を続け、大きな笑い声を上げる。

すでに致死量に達しようとしている血液を出しているヒューゴは、薄れる意識の中で痛みを感じなくなってきていた。

このままではあと数分もすればヒューゴは出血多量で絶命する。そう思われるほどの状態に陥った中、唐突に心に響く様な声が聞こえてくる。

--その男はまだ殺すな。まだ役割が残っている…。

「分かってる……」

--分かったなら早くあの小娘と騎士を殺して来い。手遅れになるぞ?

「それもそうだな…さてと」

動かなくなったヒューゴをゴミを見るような目つきで一瞥した後、ロイスは何かを口ずさみながら寝転がっている死体の方に向かう。

漆黒の衣からは湧き出る様に黒い煙が立ち込め、その煙は死体の体の中に勢い良く入り込む。すると死んだはずのロイスの部下たちが何事もなかったかの様に起き上がり、ロイスの前で整列し出した。

「我が死神達よ…セレスティアとリオナスの首を取ってこい」

ロイスがそう指示を出すと、ゆっくりとした足取りで書斎の方向に足を向け出した。

リオナス……セレスティアっ!!

消えつつあったヒューゴの意識は、大いなる力を支えに変調が起き出していた。

俯き加減にその体はゆっくりと起き上がり、その足は力を取り戻す。

長髪に隠れているその眼は大きく見開かれ、薄く開かれた口からは多量に力の源を吸い込む。

「…セレスティアの命は絶対に俺とリオナスが守り切る。ここは絶対に通さぬぞっ!!」