風に揺蕩う物語

フォルミス山の参道は緩やかな舗装された道が続き、綺麗な色彩は人の目を引き付けるほど美しい道だ。この美しさを特権階級の者しか味わうことが出来ないのが、ヒューゴにとって何とも言えない気持ちになる。

一般の国民にも是非この色彩を楽しんでもらいたい。ヒューゴの中にそんな思いはあるものの、それもかなわない願いであるのだった。

いついかなる時でも、王族の御身をお守りしないといけない。

王族の住まいであるエストール城に、一般の国民を近づける事など出来る訳がなかった。

十分に水分を補給したのだろうミアキスは、ひと鳴きすると鼻先をヒューゴの腕に押し付けてきた。どうやらもう休憩は十分のようだ。

血筋の確かな馬であるミアキスは、とても利口な馬だ。そしてこの血筋の馬は、生涯に一人の主人にしか懐かない品種だと言われている。その為か、主人の考えを理解出来る馬として有名で、戦場を駆ける者にとっては必須の品種だった。

エストール王国の騎士では、士官クラスの階級の者がこの品種を愛用している。

ミアキスの合図を受け取ったヒューゴは、頭をひと撫でした後、騎乗して今度はゆっくりと街道を進みだした。

エストール城の御前で、よほどの用事がない場合、世話しなく走り抜けるのはあまり好ましくないからだ。

フォルミス山から見えるファルロースの町並みを眺めながら、エストール城の城門に辿り着いたヒューゴは、ミアキスから降りると、門番に話しかける。

「騎馬大将補佐のヒューゴ・シャオシールだ。城門を開いてくれ」

門番は背筋を伸ばし、騎士の敬礼をヒューゴに返すと、素早く城門を開くための準備を始めた。すぐに城門は開き、完全に開き終わると、兵士の一人がヒューゴが連れているミアキスの手綱の前に来る。

ヒューゴはミアキスの腹の辺りを軽く叩き、手綱を兵士に手渡した。

これでヒューゴの意思はミアキスに伝わるはずだ。ミアキスは素直に兵士の手綱捌きに従うと、そのまま騎士の宿舎がある施設の方に進んでいく…。

ヒューゴはその姿を見送った後、宿舎とは違う方向にあるエストール宮殿の方に進んで行った。

エストール城の中には大きく分けると三つの建物がある。それは王族騎士の兵舎と、文官達の元老院と王族の住処でもある王宮だ。