風に揺蕩う物語

詰め寄りながら話すヒューゴだが、そこでロイスは盛大に笑い声を上げた。

「笑わせるなヒューゴ・シャオシール。お前も分かっていよう…どうあがいてもお前が陛下と王妃を殺した反逆者という事に『なっている』という事に」

「黙れ…お前を捕縛したのちに、その誤解を解けば良いだけの話だ」

「それは無理だな…お前は私に勝てない」

「…試してみようか?文官程度に舐められるほど俺は弱くはないぞシル・ロイス」

この場はどうにかなりそうだ…。

そう考えていたヒューゴだったが、ある光景が脳裏によぎった。

シル・ロイスがこの部屋に現れた時に、何が起きたのかを。

確かドアを…吹き飛ばしていた!!

ロイスが前方に手を翳した瞬間、自分の身に危機を感じたヒューゴは、後方に飛び大きく間合いを開ける。するとヒューゴが居た空間には濃密な歪みが生じ、すぐに大きく離散した。

「惜しいな…あと少しで捕縛出来たんだがな。豊富な戦経験による危機察知能力か」

翳されたロイスの手には、禍々しいまでに漆黒に包まれた無形なる物が握られていた。ヒューゴには目の前のロイスよりも、その無形の物自体に畏怖の念を覚える。

あれは何だ…。

「リビングアーマーか…」

ヒューゴの呟きにロイスは、今日一番の驚きの表情を見せる。

「なぜお前がその名を知っている?」

「…何がだ?」

自分が何を呟いたかに気づいていないヒューゴは、怪訝な様子を見せる。今度はロイスが多少の困惑を見せる事になった。

「幻聴か…私も今日は疲れているのかもな。これは一気にケリをつける必要がありそうだ」