風に揺蕩う物語

「リオナス…セレスティア様を連れて書斎に行け」

ヒューゴは精神を集中させ、気の流れを読み取りそう話す。危機的状況に反したヒューゴの特異な力がここで覚醒する。

「書斎に隠れるのですか?」

「違う。書斎にある暖炉…その中に抜け道が隠されている。その道を進めば無事にエストール王宮から抜け出る。入口は俺が死守するからお前はその道を使って、この場から脱出しろ」

リオナスはもちろん、セレスティアやロイスすら知らない事実をヒューゴは知っていた。

否。調べたのである…この短時間で人知れず己の能力を使って。

「戯言を…そんな抜け道などこの部屋にはない」

「それは調べてみれば分かる事。リオナスっお前はさっさと行け!そして……その先はお前が考えて行動しろ」

そう言うとヒューゴは短剣手に目の前のロイスに斬りかかって行った。だが後に控えていた仲間がロイスの前に躍り出て、斬りかかる寸での所で邪魔が入る。

リオナスはヒューゴの言葉に従い、書斎の方に走り寄って行くのだが、ここでセレスティアが意識を吹き返した。抱えられている体をヒューゴの方にその身を乗り出し、手を差し出す。

「ヒューゴっ!!」

「セレスティア様どうかご無事で…私がこの場を死守します。この命に代えても…」

振り返らずにロイスの私兵と対峙するヒューゴ。リオナスはセレスティアの体を無理に抱き寄せ、そのまま書斎の方に入っていく。

残された者達はこの場で死闘を繰り広げる事になった。

「全く大した力だな。この者達もそれなりの手練なのだが…瞬く間に全滅とは恐れ入る」

不慣れな短剣を手に戦ったヒューゴだが、それなりの手傷は負わされたものの、多勢に無勢のこの状況でロイスの私兵達を瞬く間に抹殺した。

返り血を浴びたヒューゴの姿は、とても国民達に医療を施していた人物には見えない。血塗られたその姿は悪鬼にすら見える。

「後はお前を捕縛すれば終わる…覚悟しろシル・ロイス」