風に揺蕩う物語

ロイスは相も変わらず余裕の表情だ。

セレスティアは心ここに非ずといった様子で、意識が外に飛んでいる。

だがこんな状況でも冷静を保てていたのがヒューゴではなくリオナスだった。現状を見る限り、誰が陛下と王妃を手にかけたのかは、その眼で見ていないのだから2人が何を言おうが空論である。

大事なのはヒューゴがセレスティアを手にかける様子がない事。そして不確定要素の多いロイスとその仲間は信用出来ないという事だ。

「兄上…この場はセレスティア様の身の安全を確保する事が先決でよろしいですね?」

「あぁ?…その通りだ。お前に任せるぞリオナス」

「御意」

たった一言セレスティアの名前を出すだけで、ヒューゴは幾分冷静を取り戻す。

大事なのはセレスティアの身の安全。己の保身など二の次なのだ。

「困りますなリオナス殿。反逆者に手を貸すという事は、貴君もヒューゴ殿と同じ罪を償う羽目になるのだぞ」

「黙れ」

リオナスは一言そう言うと、自身の大剣を鞘に納め、セレスティアの御身を抱き上げる。

「セレスティア様の御身に触れる事、今この時だけお許しください」

セレスティアからは返事はなく、リオナスにその身を預けるのみ。セレスティアの状態は心配だが、今は職務をこなすのみ。

道は兄上が必ず切り開いてくれる。そう信じてリオナスは、入口を走り抜ける時期を待つ。

そんな状況を見たロイスは、後ろに控える者達を一瞥したのちにこう言い放つ。

「…お前達はこの二人を反逆者としてこの場で捕縛しろ。その際、いかなる怪我を負わせようとそれは不可抗力として認める…セレスティア様も然りだ」

ここでリオナスはヒューゴの言葉の意味を真に理解する。

このシル・ロイスこそ反逆者であると。どんな理由があるかは知らないが、陛下と王妃。それに姫様おも手にかけようと画策しているのだ。