宮殿内では漆黒に身を包んだ者達が、短剣を片手に足音を殺しながら一人の人間を追っていた。

追われている人物はただ一つの思いを胸に、その者達を振り切りながらある場所に向かっている。

「セレスティアっ」

ヒューゴは全速力でセレスティアの自室に向け走っていた。

なぜヒューゴがセレスティアの下に向かおうとしているのか。

その理由は数分前の出来事まで遡る事になる。

ヒューゴがセレスティアの自室の前まで駆けつけると、見張りをしていなくてはいけないはずのリオナスが、ドアに寄りかかりながら眠りについていた。

ヒューゴは走っていた勢いのまま、リオナスの横っ面に蹴りを打ち込むと、背後を振り返り、携帯していた短剣を抜いた。

リオナスはかなり驚いた表情を見せながら起き上ったものの、現状を把握しきれていなかった。当然である…。

目を覚ましたら、自分の兄が見知らぬ服装の者と剣を交えているのだから。

それになぜ自分が眠っていたのかも理解出来ていないだろう。それも当然である…。

眠らされていたのだから。

リオナスは呆けている頭を一瞬で切り替えると、持っていた大剣を抜き、ヒューゴに加勢しようとしたのだが…。

ここでヒューゴの怒号が飛ぶ。

「手を出すなリオナスっ!お前はセレスティア様の自室に入って警護をしろ!」

そう言い切ると対峙していた相手の攻撃を交わし、腹部に短剣を深く差し込み、心臓目掛けて上に切り上げた。その一撃で相手は口から血反吐を吹き出しながら事切れる。

乱暴に短剣を引き抜いたヒューゴは、死体を通路の横の方に蹴り飛ばすとそのまま残った相手と対峙する。

「これは一体何事です兄上!」

「理由は後だリオナス。今はセレスティア様の身の安全を考えろ!」