風に揺蕩う物語

「所用で王宮に行ってくる。帰りは遅くなると思うから…」

料理の後片付けをしていたシャロンは、少し不思議そうな表情をした後に、エプロンで濡れた手を拭うと、ヒューゴに近寄る。

「所要ですか…先ほどの書簡は誰からの連絡だったのでしょうか?」

「うん?シル・ロイス様からだよ。これから軍議をしなくてはいけなくてね…僕も立場上参加してくれって事さ」

シル・ロイスの名前を聞いたシャロンは、珍しい事に嫌そうな表情を見せる。どうやらセレスティアに色々吹き込まれた様で、良くは思っていないようである。

「私がこう言うのも痴がましいとは思いますが…お気を付け下さいヒューゴ様。文官とは時に武官とは違った卑劣な策略を練る者です。私は昔そう教わりました」

シャロンの頭の中では、式典が行われた日にギルバートに話された事が思い出されている。ヒューゴを良く思っていない一派が居る…。

その一派がシル・ロイス率いる一派の可能性が高いという事。

普通に考えると妥当な考えである。

「僕も良く知っているよ。闇打ちに来るなら返り打ちにするのみだ。知略で来るなら真っ向から戦うのみ…それで負けたのならそれは正当な負け。今も昔もそうやってこの国の歴史は進んできたんだからさ」

シャロンの言いたい事は十分理解できる。僕もそれを一番に警戒している訳だから…。

でもだからと言って逃げる事も出来ない。来るなら迎え撃つしかないのだ。

逃げたら階級が下がるだけ。もしロイスの話が本当なら権威が上がるだけ。

物事は意外と単純に進むんだ。あの人は曲者だが、味方に出来れば心強い人物だ。この機会に親交を深め、互いに手を取り合う機会を得る事こそが吉なり。

「そんなに心配しなくても大丈夫さ。僕はそんなに愚かじゃない…当家の権威を少しでも大きくする為に、邁進してみせるさ」

ヒューゴは握り拳を作り、シャロンに見せてみせると笑顔を向ける。