風に揺蕩う物語

この話を受ければ当家は、晴れて上級貴族への仲間入りを果たす事になる。

リオナスの権威も上がって陸軍での風当たりも和らぎ、イクセンの治安改善への交渉権も行使できる様になる。

初めから断る理由など存在しない。なら僕はなぜこんなに悩んでいるんだ…。

当然受けるべきだろ…。

病弱だった頃の僕ではない。槍も振るえる。

僕が騎士に戻れば、シャロンも喜んでくれる。

セレステイアもリオナスも…そして父上もきっと。

「やるだけやってみようか…この命が尽きるその日まで」

ヒューゴは握り拳を作り力を込めると、その手を見つめて目を瞑る。

心がまるで炎の様に踊り、無邪気だった子供の頃のように浮かれている自分に気づき、人知れず笑みを浮かべた。

後日ヒューゴはすぐにシル・ロイス宛てに書簡を出した。

長い文章を用いて書かれた文は、要約すると承諾する事を意味する文面で書かれており、それに目を通したのだろうロイスからは、その日のうちに連絡がきた。

その文面には、ランディス国王陛下のご都合で夜更けに王宮を訪れよと書かれていた。

ヒューゴはそれを少し不審に思いながらも、陛下の名前が出た以上、その命には従わなければいけないと考え、夕刻頃に支度を開始する。

ヒューゴは戦場に出る時、基本的には甲冑は着ない主義だ。鎖帷子を中に着込み、上には頑丈な繊維を幾重にも織り込まれて作られた特注の騎士の正装を着る。

その姿は戦場では異質な恰好ではあるのだが、それが一番動きやすく舞いやすいという理由からこの恰好を好んで着ていた。

ランディス陛下と謁見するにあたり、式典とは違う今回の場合、この恰好は最適な服装と考えたヒューゴは、この服装を着る事に決め、準備を終える。

夜更けと言われたが、ヒューゴは遅れるよりかは早く行った方が良いと考え、闇夜が訪れる前に屋敷を出る事にした。