風に揺蕩う物語

そこには美しい毛並みをした馬が2頭いる。

リオナスの愛馬である黒い毛並みをしたフーガと、ヒューゴの愛馬である薄い茶色の毛並をしたミアキスだ。

ヒューゴはミアキスの毛並みを手で確認した後、手綱を引きながら入口の方に一緒に歩いて行く。馬小屋を出ると、外にはシャロンの姿があり、ヒューゴが来るのを屋敷の門の外で待っていた。

ヒューゴは手袋をはめ馬に跨ると、門の所まで馬を走らせ、シャロンの前で止まる。

「セレスティア様に謁見した後、ちょっと軍に顔を出す事になると思うから、もしかしたら帰りが遅くなるかもしれない。だから僕の分の夕食は用意しなくて良いよ。それに起きて待ってなくてもいいから」

「わかりました。それではお気をつけていってらっしゃいませ」

シャロンはそう言うと、深く頭を下げ、僕を見送り出した。僕はその姿を見た後、ミアキスを走らせた。

シャロンは間違いなく僕の分の夕食を作るだろうなぁ。そしてどんなに遅くても僕が帰ってくるまで寝床につく事もないだろう。

変に頑固なところがあるし。

「やっぱり出来るだけ早く帰らないとな。今日の夕食はなんだろうなぁ…」

ミアキスを走らせるヒューゴは、ファルロースの大きな街道を走りぬけ、途中の王宮までの関所を何の審査もなしに通り抜ける。

流石にヒューゴの顔と服装を見れば、ヒューゴの馬を止める者は居るはずもなく、順調に王宮までの道を走りぬけて行った。

実のところ王宮までは馬車を用意されていたのだが、それだと余計な時間がかかるし、たまにはミアキスにも運動をさせたいと考えていたヒューゴは、セレスティアからの書簡を読んですぐに使いを出し、馬車の手配を断っていた。

そしてフォルミス山に辿り着くと、一度ミアキスを止め、少しミアキスに休憩を取らせる事にした。

ここには綺麗な湧水が飲める場所が設けられているので、ミアキスに湧水を飲ませながら、エストール城に視線を送る。