風に揺蕩う物語

この状況を見て騎士達は、認めざるを得なかった。

ヒューゴ・シャオシールはやはり強い。俺達とは次元の違う領域に居る騎士なのだと思い知らされた。

ヒューゴは自分が弾き飛ばしたアスラの双剣を拾うとアスラに手渡し、ギルバートに敬礼を向けた後、そのまま鍛練場の外に出ていく。

皆が一様に同じ事を聞きたかったのだが、その精悍な姿に声をかけれる人物は誰一人居なかった。

なぜ退役してしまったのですか…。

この一言がどうしても聞けなかった。



ヒューゴはそのまま兵舎の外に出ると、人目に付かない場所に移動したのち、深く深呼吸をして体を落ち着かせていた。

血がたぎる…力が溢れそうだ。

あれ以上長引いていれば、力加減を間違えてしまいそうだった。

アスラは確かに強い。昔の俺だったらもう少し試合が長引いていたかもしれない。

リオナスと同程度ぐらいか、少し下ってところだろう。

冷静さを取り戻すべく先ほどの試合をそう分析して、ヒューゴは独り声を押し殺しながら笑った。

なんて事だ…なぜここまで体が動く。

おかしいじゃないか。

全盛期よりも明らかに体の切れが良い。

それに重量武器である槍が、ナイフかと思うぐらい軽く感じた。

それに石突きで突いた時に感じたあの違和感…。

渾身の一撃を打ち込もうと空気を大きく吸い込み、足元に力を入れた時に何か変な感覚を覚えた。

アスラの動きがやけに遅く見えた。真剣の表情から徐々に驚きの表情に変え、ゆっくりと双剣を交差させる姿がはっきりと見えた。

なぜかこのままの勢いで打ち込んではいけないと思った。