風に揺蕩う物語

周りの様子などまったく気にしないムーアは、アスラの言葉を聞き、盛大な笑い声を上げるとアスラの肩をバシバシ叩いた。

「絶対に無理だってアスラ。双剣使いが槍術使いに勝つのは無理だ。明らかな実力差があるならまだしも、お前の方が明らかに弱いんだからもっての外だって」

「だから最近は調子が良いんだって。この前、リオナスとも良い勝負出来たんだぜ?ヒューゴにだって一太刀ぐらい浴びせられるさ」

「それはあれだ。リオナスが気を使ってくれたんだよ」

「違う違うっあれは結構マジな顔をしてたって」

リオナスと良い勝負をしたんだアスラ…確かにアスラの双剣は機動性が抜群に良くて、戦いにくい。アスラは大きい体をしている割に小回りが利くから、切り込み隊長としてはかなり優秀な戦績を残している。

久しぶりに実践を試してみたい。今の僕がどこまで出来るのかを…。

「良いよ。手合わせしようかアスラ」

ヒューゴは快く返事を返すと、そのまま武器庫の方に足を向けた。言い合いを続けていたアスラとムーアは、互いに顔を見合せた後黙り込む。

周りに居た兵士たちも一様に会話を辞め、ヒューゴの後ろ姿を眺めている。

不治の病。

地位剥奪。

陰で色々と噂の流れていたヒューゴだが、皆が一様に信じていたのは病気の件だった。心なしか顔色が良くない様に見受けられたのが一番の理由である。

本当はもう戦えないのではないか。

そんな憶測を確かめる事が出来る。

自然と騎士達はヒューゴとアスラが手合わせをするであろう鍛練場の方に足を向けた。この手合いを見逃す訳にはいかないというある種の使命感から…。