ヒューゴは鷹と出会った雑木林に行くのが日課になっていた。

全ては意識を失い目覚めてから始まる。

ヒューゴが危惧していた体の変調。それは良い方向に進んでいた。

というのもヒューゴの肉体は老化の一途を辿っていたはずなのに、今は全盛期の頃に戻りかけているのではないかというほど体の切れが良かった。

急激に筋肉がつき、普段着ていた服が着れなくなる。

昔使っていた槍を取り出し、振ってみると違和感なく槍を振るえたのだ。

槍をまた自分の思い通りに振るえる。その喜びたるや言葉では言い表せないほどの衝撃を受けたヒューゴは、その日からまた鍛練を開始した。

だがシャロンがその姿を見ると、要らぬ心配をかけてしまう恐れがあると考えたヒューゴは、シャロンの眼の届かない場所で鍛練する必要があった。

なのでこの雑木林は恰好の鍛練場として役立つのだ。

そうしてヒューゴは昔の感覚を取り戻す。脳内で相手を想像し間合いの感覚や空気の流れを感じる。

静寂な時の流れと自然豊かな草木の匂い。風が運ぶ様々な情報がヒューゴの体の奥まで沁み渡り、風を切り裂くが如く槍を振り切る。

鋭く研ぎ澄まされた穂先(刃)が、大地に生える草花を何の抵抗もなく寸断する。

演武の様に独自の型を自然な流れで披露し、見ている者がいれば感嘆の声を上げるであろうその動きは、優雅であり綺麗であった。

ただ強いだけなら神ではなく、おそらく鬼と形容されていただろう。だがヒューゴの槍捌きには気品があり、どこかしら神聖な雰囲気を持っていた。

神槍使いと言われる所以はこの舞とも言える動きにあるだろう。

生まれてすぐに武芸を嗜み出したヒューゴは、鍛錬を始めると時間を忘れて没頭する癖があった。なので気がつくと闇夜が訪れそうな時間になる事もしばしばで、シャロンに勘繰られる前に急いで帰るといった事を毎日していた。

今日もヒューゴは時間を忘れて鍛練し、ミアキスに無理をさせながら急いで家路についた。

家に入るといつもは台所辺りから姿を現すシャロンが、玄関でヒューゴを迎えいれる。