風に揺蕩う物語

その作業を終えると、花で出来た香油を手に取り、優しく髪の毛に馴染ませ、型崩れしない様に髪型を整えた。

そしてヒューゴの髪型をしっかり決めた後、その髪型に合う様な軍服と装飾を難しい顔をしながら選んでは首を振り、色々と思案している。

そんな作業が朝日が完全に昇る前から始まっており、今は朝市が始まろうかと言う時間になっている。ヒューゴが女性ならともかく、男性でしかも軍人なのだから、ここまで気にする必要などないのではないかと思っていた。

そんなヒューゴの気も知らず、あれでもないこうでもないと忙しなく動いているシャロンに、ヒューゴは心の中で大層大きな溜息を吐いた。

それからほどなくしてシャロンが満足出来る仕上がりになったヒューゴは、鏡で自分の姿を眺めた。

普段は髪の毛を適当に縛っているヒューゴの金髪は、朝日の光に反射するほど艶やかな髪質に変貌していた。ただストレートにくし削るだけでは女性の様になるので、香油で遊びを与え、女性の髪型とは少し違う風に変化をつけている。

軍服は式典に出る様の代物を用意し、胸元にはシャオシール家の家紋が入っている勲章と、陸軍の大将補佐の証である勲章が着けられている。

装飾は最終的にシンプルな物を選んだようで、胸に着けられている勲章が際立つ様に銀のチェーンを交差する様に軍服に取り付けられていた。

「よくお似合いですよヒューゴ様。今のヒューゴ様を見れば、王宮の女官達も視線を奪われ、思わず仕事の手を止めてしまうでしょう。これならセレスティア王女様との謁見も恥ずかしくありません」

「そう…かぁ。ありがとう……助かったよ」

ぐったりという言葉がよく似合う表情をしたヒューゴは、軽く嫌味を含めてシャロンに感謝した。シャロンはそんなヒューゴの気持ちなどお見通しなのだろう。その言葉を軽く受け流すと、片付けをし始めた。

ヒューゴは形だけの片手剣を腰に携え、玄関を出ると屋敷の外にある馬小屋の中に入っていく。