風に揺蕩う物語

セヴィル将軍の射抜くような眼つきと、彫刻の様に綺麗な姿勢の騎士の敬礼を見た僕は、頭の中で歴史に名を残す偉人とはこの様な人の事を言うのだと思った。

実に精悍な姿である。

僕は返礼を返すとそのままセヴィル将軍と談笑を楽しんだ。多分だがセヴィル将軍とはこれからも仲良くなれるような気がした。

それから僕は、セヴィル将軍に案内されてヒクサク様に会うことが出来た。どうやら当てが割られている自室に戻って晩酌を楽しんでいるようだった。

豪快に酒を煽っていたヒクサク様は大変陽気になっていて、一緒に飲もうと酒を進められてエライ目にあった。

どうやら今日の式典などで気疲れをしたのか、かなりタガが外れていらっしゃるご様子で、怒涛の如く一般人には理解の難しい内容の話をしていた。

セレスティア曰く、粗野な会話の部類の話である。

前に一度、粗野な会話で意気投合していたので、ヒクサク様も気兼ねなく話しているのだろう。だが一つ意見を言わせてもらえるのなら、僕もそこまで詳しい訳ではない。

適当に相槌を打ちながら、酒を飲み過ぎない様にヒクサク様の会話に付き合っていると、一緒に合席していたセヴィル将軍が助け船を出してくれ、日付が変わった頃にやっと解放された。

そう言えばシャロンはどうしているのだろうか…。

セレスティアに任せてもう結構の時間が経過している。

セヴィル将軍と一緒に会場の外に出た時は、すでに二人の姿は消えていたので所在が分からない。聞こうにも誰に聞けば良いのやら…。

王宮の中は静けさが辺りを包みながらも、賑やかな笑い声が所々から聞こえてくる。通路の端に置いてある松明の明かりを頼りに、僕は無心で彷徨い続けていると、幾分疲れた表情をしている女官が前方から歩いてきた。

見覚えのない女性だが、この機会を逃す手はない。

僕はその女官に話しかけ、セレスティアの所在を聞いてみた。どうやらこの女官はセレスティア付きの女官ではなかったのだが、どこに居るかは知っていたようで、僕に教えてくれた。

「セレスティア様は自室に居らっしゃるとお聞きました。友人とお酒を嗜みながら談笑をなさっておいでのようです」