風に揺蕩う物語

ヒューゴは少し考えてから言葉を話す。

「そうですね…平穏が続いているからですかね。あえて答えるならこれが理由です」

「平穏？」

「乱世には武力が必要でしょう。ですが今はグレイス共和国とは良好関係が続いているし、６ヶ国同盟領とは休戦協定が結ばれています。国内外の治安を守る為の兵力は必要でしょうが、私一人が退役しようが特に影響はありません」

僕にとってこの理由は口から出まかせではない。

アロニア大陸には大きく分けると３大勢力があり、西南部に領土を持っているエストール王国と、北部の山岳地帯を実効支配しているグレイス共和国。

そして残りのもう一つが、６ヶ国同盟と呼ばれる小規模の六つの国が、東の領土で独自に同盟を結んでいる領地がある。

歴史を紐解いても、ほとんどの外交を拒んでいる領地で、はっきり言えば謎の多い地域だ。３年前まではエストール王国とも小さい小競り合いは頻繁に起きていたのだが、書面のみの休戦協定が結ばれている。

当時の僕は国境警備隊に居たので、頻繁に戦地に駆り出されて居た。

そしてグレイス共和国とは未だに小競り合いが続いており、国境付近では予断の許せない状態が続いている。

セヴィル将軍は僕の言葉を聞き、表情を厳しいものにしている。どうやら納得がいっていないようである。

「平穏はすぐに壊れるものですよヒューゴ殿。得体の知れない６ヶ国同盟がいつ協定を破って攻め入ってくるかわからないのですから、他国にとっての脅威として騎士を続ける方がよいのではないですか？」

「その時が来ればまた槍を握りますよ…騎士の誓いに従って」

セヴィル将軍は、騎士の誓いという言葉を呟くと、小さい笑みを見せる。そして僕の眼を真剣な目つきで見つめると、騎士の敬礼を向ける。

「…その時が来たなら、共に戦場に立つ事もあるでしょうな。エストール王国とグレイス共和国は同盟を結んでいます。要請があれば私はいつでも戦場にこの身を投げ出し、武勇を見せましょう」