風に揺蕩う物語

会場に戻ったヒューゴはヒクサクの姿を探していたのだが、会場のどこを探しても見当たらなかった。特設されたテーブルには当然姿がなく、ダンスを嗜まないヒクサクは、当然踊りに参加していない。

広い会場とは言え、従者を連れているであろうヒクサクの姿を探すのは難しくないはずなのだが、どこにも見当たらなかった。

仕方ないか…誰に聞こうかな。

見当たらないのなら、誰かに聞くしかない。そう考えたヒューゴは周りに視線を送っていると、唐突に目があった人物が居た。その人物は一応探し人の一人だったので、ヒューゴはその人物に歩み寄り、話しかける事にした。

「お初にお目にかかりますセヴィル将軍。ヒューゴ・シャオシールと申します」

目があった人物はセヴィル将軍だった。グラスを片手に精悍な佇まいで会場の端に居り、用事がなければ話しかけにくい雰囲気を醸し出している。

だがヒューゴと視線があった事で、暗い表情を少し明るいものにしたセヴィル将軍は、開いた片手を差し出す。

「お名前は兼ねてから伺っております。神君の名に恥じない神槍使いのヒューゴ・シャオシール殿の名前は、大陸中で名が通っていますので…」

「買いかぶり過ぎです。私はそんな大層な人物ではありません。ただのしがない町医者です」

「なるほど。決して聞くまいと思っていたのですが、ヒューゴ殿の口から聞いてしまっては聞かずにはおれません。失礼を承知で聞かせてもらいますが、どうして武人としての名誉を捨ててまで医者などをしているのですか?事実上大陸一の勢力を誇るエストール王国の上位騎士の最上位の名声は、望んで得れるものではないのに」

おそらくセヴィル将軍が聞きたかった事とはこの事なのだろう。寡黙な人物と聞いていたのだが、饒舌と言っても過言ではないほどの勢いで僕に話しかけている。

それは理解出来ないだろうな。だがこの質問にまともに答える訳にはいかない。