風に揺蕩う物語

だがセレスティアはそんな僕の事など気にもしないで、シャロンの座っている長椅子の隣に上品に腰かけると、幼稚な子供の様に顎を上に突き上げて見せた。

「嫌ですぅ。ヒクサク様とヒューゴの話の内容は粗野ですもの。私はここで、シャロンと淑女たる会話を楽しみたいわ」

毅然とした態度を見せていたセレスティアなのだが、口調も雰囲気を全てを変えて話しだす。

「粗野って…他国の王子との会談の内容をその言葉で締めくくらないで下さいよ」

「それでは品が無いとでも言っておきましょうか?とにかく私の興味のない会話を聞くのは時間の無駄です。私はシャロンとずっっっと前から一度話をしたいと思っていたの。だからヒューゴは黙ってヒクサク様の所に行って、ゆっくりと会話を楽しみに行きなさいよ」

語尾がですます口調から、命令系に変わりつつある会話に、シャロンは困惑を見せだした。注意出来る立場にないし、口を挟むのも憚れるこの状況。

困惑半分、呆れ半分といったところだろう。

「あのなぁ…まぁ良い。ならシャロンを頼んだよティア。僕はご希望通り、ヒクサク様と品がない会話を存分に楽しんでくるからさ」

ヒューゴは皮肉の言葉を残すと、そのまま会場の方に足を向ける。

「ヒューゴ様っ?ちょっとそれは」

「良いのよシャロン。気にしない気にしない」

ヒューゴの失礼な物言いに驚きを見せたシャロンを、何故か騒動の当事者であるセレスティアが宥める変な図式が出来あがっていた。

気がつくとヒューゴの姿はその場から消えていた。

「ヒューゴも居なくなった事だし、女の子の会話でもしましょ…傷の手当てが終わった後にね」

セレスティアはそう言うと、ゆっくりとした足取りで歩いてくる微笑みを携えた初老の男の方に視線を向ける。

その後ろからは、包帯や傷薬などを手に抱えている女官の姿もあった。